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『お道具&竹竿マニア』なアングラーが、フライフィッシングをキーワードに、
道具や森羅万象、さまざまなモノ、コト、を『辛口&主観的』な視点で書いています。

2014/12/27

"Alchemy Dharma 754 Parabolic" 開発の経緯(その1)

ロッドのパーツに使う、ハードラバー
アルケミータックルといえばハードラバー・リールですから、ね。


"Alchemy Dharma 754 Parabolic" UD Glass Rod 

Specifications
Material : Unidirecthional E-glass
Recommended line weight : DT-4 (WF-5 is good too ) 
Total length : 7' 5"
Pieces : 4
Blank Weight : 57g
Action : Parabolic / Medium~Slow


開発の経緯


私はこの20年ほどの間、ほぼすべての釣りをバンブーロッドと竹竿(トンキンケーン以外の竹篠類を素材として作られたフライロッド)で通してきました。
(ただし、海で使うフライロッドと、ヘビーなツーハンドロッド以外ですよ。)

グラスロッドもフライフィッシングを始めてからの長い年月の間にラスピークを始め過去の名品といわれるWinstonやScottのグラスロッドをその折々に買ったこともあり、たまには釣りに使っていたのですが、クラシックロッドから現代の個人メーカーまでの様々な種類やアクションの竹竿を使うなかで、あえてグラスロッドを釣り場に持ち出そうと思うことはほとんどありませんでした。

ところが、10年ほど前、Mario Wojnicki とバンブーロッドのことでやり取りしていたときに、
彼が、
「新しいグラスロッドが出来たんだ、これは凄くいいよ」
という話になり、
つい、いきがかりで、
"217P4 7.2 ft - 4 line - 3 pc. 
Exceptional rod with a unique taper for fiberglass. Medium fast, true parabolic action."

という竿を買ってしまったのですが、この竿がもの凄く良かった。




個人的には、あのラスピークのグラスロッドよりも、釣りに使っていて気持ちよかったのですね。
キャスティング時にラインの動きが手に取るようにわかり、スムーズなラインが真っ直ぐに伸びていく。
ランディング時にもバットのブレが一切なく、スムーズに魚を寄せてくれる。

「へ~、最近のグラスロッドってこんなに良いんだ」

と、『目から鱗』状態で、その頃売り出されたりしていた、S社やW社製の1970~80年代の頃と同じようなコスメで仕上げられたリプロダクションロッドを買ってみたのですが・・・、

残念なことに、これらのロッドは、20年前のオリジナルとは機能面で似ても似つかない、とても竹竿と持ち替えようとは思えないようなイマイチなアクションのロッドばかりで、即ヤフオク行き。

国産のグラスフライロッドも、たまたまなのかどうなのかはわかりませんが、購入した竿は、なんだか柔らかさを強調したようなダラダラした竿にしか当たりませんでした。

結局、このMarioの竿は、なにかのフロックで偶然できたものなのだろう、
ということで、私はこれまで通りの竹竿マニアに戻ってしまったのです。

それから、また時が過ぎて、2013年の秋、NYの "Catskill Fly Fishing Center and Museum" で行われたミーティングに参加したときに、同じ日本から参加した友人が、白いグラスで出来たフライロッドロッドを持っていました。
そのロッドをモーテルの庭で振ったとき、フライロッドを振っていているなかで、このところしばらく感じることのなかった、「なんだこりゃ・・・」状態になってしまったのです。

その白いグラスロッドは、ファーストテーパーにもかかわらず、やたらとスムースで、なんのテクニックも使わずに、自然に、スラックの入らない方向性のいいラインを、『ラインの先端まで神経が通って繋がっている感覚』を保ちながら、スーッと前後に伸ばしていったのです。

それは、ほんとうに、これまで化学素材で出来たロッドでは感じたことがないほどのナチュラルな感覚でした。

「え~、この竿って、いったいなんなんだ」

と、驚くと共に、強烈な疑問を感じたのです。

だって、この竿を開発したのは、基本的にはフライとはまったく関係がないはずの、トップウォータープラグ専用のバスロッドを作っている方だったのですから。

フライばっかりやってるメーカーでもなかなか出来ないものを、バスの人が作っていた。
これは、いまでこそ正直に言えますが、本当にものすごいショックでした。

そのとき同時に、そのM氏がフライロッドビルダーの設計で作った、という竿のプロトタイプも振らせていただいたのですが、こっちは、私的には、キャスティングにちょっとしたウイークポイントを感じる竿でした。
(のちほど、その方はキャスティングよりもフライの操作性に重きを置いて、その竿をデザインしたと聞いて、いちおう納得はしたのですが・・・)

で、そのM氏が作ったヘビーな4ピースのバスバギングロッドが、また凄かった。

こりゃ、もう、この方と一緒にフライロッドを創るしかない!

と、日本から遠く離れた、ニューヨーク、キャッツキルの地で思ったのです。


2014/12/24

"Alchemy Dharma 754 Parabolic" UD Glass Rod ペイン風味


"Alchemy Dharma 754 Parabolic" UD Glass Rod 『ペイン風味 by NCA』


発売したばかりのグラスロッドブランクを買って頂いたお客様から、さっそくインプレッションが届きました。

嬉しいので、転載させて頂きます。

「こんばんは。
早速、実釣してきました。
久しぶりの穏やかな一日。
残念ながら釣果はありませんでしたが、ドライフライ、ウェット、ニンフと一通りやってみました。

葦を刈り終えたばかりの寺前の広場で4種類のラインを試し振りしてから、実釣では先ずウルフのロングベリーWF#4を選択しました。
バンブーロッドにも相性が良いラインです。やや重めのラインですのでラインスピードは抑え目が良い感じでした。特にドライでは。

長くはないロッドですがロールキャスト、ジャンプロールキャストがやり易いですね。パワーの伝達にロスがない証拠でしょう。

イベントの時に?だったトライアングルテーパーはラインスピードを上げると良い感じに投げられましたし、半番手ヘビーのGPX#4も違和感無く投げられるのが不思議でした。
少々の風なら問題なさそうです。
ホントにグラスらしからぬ頼りがいのあるロッドです。
しなやかなのにパワーがあり、力強いのに柔らかい感触。
何でも出来るサオでした(^。^)

次回はサカナを掛けないといけませんね。」


M様、ありがとうございました。









2014/12/22

クラシックなグラスロッドと、最新のグラスロッド、について


「クラシックなグラスロッド」と、「最新のグラスロッド」について、

ちょっと書いてみようと思います。



「クラシックなグラスロッド」といっても、1950年代から1970年代にかけての、いわゆるグラスロッドの黄金時代に生産されたものと、
それ以降、いわばグラファイトロッドの全盛期になってから、過去のゴールデンエイジのグラスロッドをできるだけ忠実に復刻したり、当時のアクションや外観をイメージして製作されたロッドに分けて考えないと、考察する意味がなくなってしまうと思います。

過去のゴールデンエイジに生産されたロッドは、ごく少数の例外を除き、そのほとんどが大メーカーによるプロダクション品でした。
言い換えると、「そこら辺のどこにでもあった、普通の釣竿」です。

フライフィッシング自体が釣りのジャンルの中では当時から少数派だったので、本当の意味で「どこにでもある」というには語弊がありますが、その中に、普及品から高級品までの商品ヒエラルキーがありました。

このゴールデンエイジのグラスフライロッドについては、おもに英語で書かれたものですが、文献や資料がかなりたくさん存在しているので、今回は割愛しようと思います。

ひとこと書き添えるならば、よくできた当時のグラスロッドが適当なメンテナンスさえ怠らなければ現在でも十二分に現役のフライロッドとして使えるのは、クラッシックバンブーロッドと同じです。


リプロダクションロッド


2000年を過ぎた頃から「コレってなんだかなあ」と思うしかない、「ネーミングとコスメティックばかりが過去の有名なロッドと同じ」というだけの、本質を見失ったマーケッティングから企画された中途半端なリプロダクション・グラスロッドが、国内外の、いわゆる大手メーカーから繰り返し販売され続けています。
オリジナルを知るものにとっては、使ってみると落胆するしかない、そういう「マガイモノ」についての批判を書きかけたのですが、その手の話は書いていてもつまらないので、ここではあえて取り上げないことにします。

私がいま、ここで語るべきなのは、ノスタルジックなゴールデンエイジのグラスロッドを、そのスペックと性能をできるだけ忠実に再現したものと、
グラファイトロッドの登場によって進化を止めてしまったまま忘れられたようになっていたグラスロッドに、新たなグラスロッドの可能性を追求した最先端を行くロッドについてだと思います。


本当の意味で、過去のロッドをリプロダクションするには、当時のロッドの図面的なデーターのみならず、その竿が作られていたときに使われていた治具などが必要になります。

もうひとつは、当時と同じグラスファイバーの素材がいまもなお手に入るかどうか、ということです。
そこまで揃っていて、はじめて本当のリプロダクションということが可能になるわけですね。

この中でいちばんハードルが高いのは、なんだと思われますか?

最も手に入りにくいものは、当時のデーターでも治具でもなく、グラスファイバー素材そのものなのです。何十年もの時の流れの中で、当時使われていたグラスファイバー素材は、さまざまな理由があって現在ではほとんど使われなくなってしまいました。

1950~60年代に、グラスロッドブランクの主流であったタバコグラスとも呼ばれる、フェノールレジン、つまりフェノール樹脂を使ったGFRPは公害問題が原因で生産されなくなり、いまではごく一部の工業用資材として使われているだけです。

その後、ポリエステル樹脂を使ったグラスロッドが一時生産されていたのですが、わずかな期間のうちに、物理特性の面でより優れたエポキシ樹脂を使ったロッドに置き換えられてしまいました。

60年代頃から使われ始め、その後のグラスロッドの主流となり、現在のグラファイトロッドでも使われているレジン(樹脂)がエポキシ樹脂です。
エポキシ樹脂は、その汎用性の高さから、さまざまな新しい樹脂が開発され続けている今日になっても、釣竿の素材のみならず、いたる所で使い続けられています。

幸いなことに、会社をやたらと売り買いするビジネスがなかった日本では、グラスブランクを作っていたメーカーの製作治具などがいまだに散逸せずに残ってることも多いのです。

そんなわけで、過去の日本製のエポキシを使ったグラスロッドブランクなら、本気でやる気になりさえすれば、かなり忠実にリプロダクションすることが可能なのです。

そこまでの思い入れを持った個人や、メーカーがあってのこと、なのですが。


たとえば、このロッド、まさに当時の名竿のリプロダクションです。


グラスロッドのニューエイジ


そして、グラスロッドの新しい可能性を求めて作られたロッドが、ここ数年、様々なジャンルで作られるようになってきました。

グラスロッドの個性、つまり、グラスロッドの持つ弾性と強度が、ある種の釣りが要求する釣り竿のスペックを満たす素材として最適だということがわかってきたのです。
たとえば、粘りと強度が必要な海の大物用のジギングロッドや、バス用のトップウォータープラグを演出するためのロッドですね。

その流れのなかで、かのラスピークや、スコット、ウインストンがグラス素材でのフライロッドの製作をやめた、70年代後半から80年代の初めに止まってしまっていたグラスロッドの時間が、また動き出したのです。

これらの新しいグラスロッドは、もはや前世紀のグラスロッドのコピーではありません。
同じグラスロッド、という名前は付いているものの、まったく新しいものだと考えた方がいいように感じます。

確かに使われているガラス繊維の組成や物理的特性は同じかも知れません、しかし、グラスロッドを作るためのプリプレグとして考えると、ガラス繊維の径、グラスシートの製法、そしてその繊維をまとめるための樹脂、そのすべてが過去のものからは大きく進歩しているのです。


長くて高番手のフライロッドに関しては、未だよくわからないところがあるのですが、少なくとも渓流で使用するスペックのシングルハンドロッドに関しては、最新のグラスロッドはグラファイトロッドに勝るとも劣らない性能特性を持っています。

グラスロッドが唯一グラファイトロッドに負けるところがあるとすれば、それはブランクにしたときの重さなのですが、これも、フライロッドはただ軽ければいい、というわけではない、という考え方もあるので優劣は微妙だと思います。

バンブーロッドを含めた竹製の良くできたフライロッドが、フライロッドとして抜群の性能を持っているのは、けっして軽いからというわけではありません。重さと反発力のバランスが、フライロッドとしてちょうどいい具合になっているから、だと思います。

ただ、それは、長い年月の経験の積み重ねから来たものだ、といわれると、反論するには苦しいところがありますが、そういうときは、
「フライフィッシングというシステム自体が、竹竿をベースに組み立てられたものだ」
ということで煙に巻くことにします。

その『フライフィッシングというシステム』に、最新のグラスロッドがピッタリはまるのです。
おそらく、質量と反発力のバランスが竹に似ていること、が、その理由だと思います。

余分なものを削ぎ落とした最新のグラス素材は、
『まさにフライロッドのための素材だ』
と言っても、過言ではないと思っています。


2014/12/08

グラスロッドの素材について


"Alchemy Dharma 754 Parabolic" ついに発売です!!
スペックは、7'5",  4 piece,  #4 Line, UD-Glass, Parabolic action
まずはブランクの販売を開始いたしました。
価格は、21500円+消費税です。

写真のロッドはプロトタイプですので、
ファクトリー完成品のロッドは外観が少し異なります。
価格は、標準仕様で52000円+消費税、ロッドソックが付属します。
カスタム仕様での製作も可能です。詳細は当方までお問い合わせください。

※表示している価格は2014年12月の価格です。




グラスロッドは、素材の資質がモノを言う…


 "Alchemy Dharma 754 Parabolic" Glass Rod の販売を始めたので、以前 "Facebook"に連載していた、「グラスロッド」について書いた記事をまとめてみました。


(その1)

いま入手可能なグラスロッドの素材はわずかな種類だけに限られています。

グラスロッドはGFRPシートをテーパーを持ったチューブ状に成形することでブランクを作成するのですが、そのGFRP、つまり「ガラス繊維強化プラスチック」はグラスファイバー、つまりガラスで出来た極細の繊維を樹脂でまとめることで製作されています。

現在使われているGFRPは、大きく分類すると硬さと強度が異なる2種類があり、それらにはそれぞれ、いわゆる「Eグラス」と「Sグラス(東レが作っていたものはTグラス)」と呼ばれる硬さと強さの異なる二種類のグラスファイバーが使われています。

そして、そのガラス繊維をまとめてGFRPシートにするための樹脂として、エポキシが使われています。

かなり単純でしょ。

でも、その先があるのです。








(その2)

ひと昔前は、ロッド用のグラスファイバーをバラケないようにまとめる樹脂(レジン)としてフェノールやポリエステルを使っていたものもあったのですが、現在ではほぼすべてのロッドブランクにはエポキシ樹脂が使われています。

つまり、グラスロッドは、Eグラスか、Sグラスのファイバーをエポキシ樹脂でまとめたプリプレグというシートを丸めてチューブ状のブランクにしたものからできています。

素材として柔らかいのがEグラス、硬いのがSグラスですね。
強度は、実用レベルではほぼ変わりません。

同じ長さ、同じ硬さのフライロッドをこれら二つの素材で作れば、そのフライロッドはそれぞれどのようになるのでしょうか?

単純に考えると、Sグラスで作ったロッドと同じ硬さにするためには、Eグラスの方はグラス素材をたくさん使う必要があるわけです。
逆に考えると、Eグラスで作られた竿と同じ硬さの竿をSグラスで作ると、グラス素材は少なくてすむ、つまり軽くなるのです。

付け加えるならば、昔はEグラスしかなかったので、古いグラスロッドはすべてEグラスで作られていました。

そこにもっと硬い素材としてCFRP(炭素繊維強化プラスチック、いわゆるグラファイト)が開発されました。

硬い素材を使えば使うほど、同じ長さ、硬さのロッドは軽くなっていきます。
そして、ユーザーは「より軽い竿」を求めました。

この流れは、より硬いグラファイトをロッドの素材に使うという方向へ進んで行きます。

グラファイトの時代になって、グラスロッドは古い素材ということで進化を止め、初期はグラファイト素材の単価が高いこともあって、グラスロッドはいわゆる安物の竿、グラファイトロッドを買えない人のための二級品の地位に甘んじることになりました。

その中でも、できるだけ軽いものを、という要求からEグラスは歴史のなかに過去のものとして埋もれていき、新しく作られた、グラスとしては硬いSグラス(東レが開発した新素材にはTグラスという商標が付いていますが、Sグラスとほぼ同じものです)を使ったロッドが生き残ることになったのです。


ところが、この辺りから話がややこしくなっていきます。

1980年代に始まった個人メーカーによるバンブーロッド(竹竿)のルネサンス(復興)のなかで、バンブーロッドに時代遅れの工芸品としての価値ではなく、釣竿としての機能性を求めた一部の優れたメーカーが現れました。
彼らニューエイジともいえるロッドメーカーとそれらの竿のユーザーによって、

『フライロッドという竿は、軽くて反発力が強ければそれでいいのか・・・?』

という疑問が頭をもたげてきたのです。

この流れのなかから「グラスロッドの再発見」とでもいうような、グラスロッドのブームが起こってくるのです。








(その3)

グラスロッドに使われているグラスファイバー(ガラス繊維)の、EグラスとSグラスの比較ですが、米国のサイトにはこのように書かれていました。

S-2 glass was the first developed for military missle(missile の間違いでしょう) applications. It is a different glass than standard E-glass and is about 30% stronger and 15% stiffer.

S-2グラスは、Eグラスと比較すると、強度が30%、硬さが15%、増しています。

ここには"S-2"グラスと書かれているのですが、SグラスとS-2グラスがどう違うのか調べてみたのですが、わかりませんでした。

ちなみに米国のグラス繊維メーカーは、現在はS-2グラスをSグラスとして使っているようです。

ちなみに、
Tom Morgan Rodsmiths fiberglass rod、は
Kerry Burkheimerの製のブランクを使っていて、
Kerry works with E-glass, the original fiberglass material I used.
つまり、Eグラスのオリジナルマテリアルを使っているそうです。

オービスのグラスロッド "Orvis The Superfine Glass fly rod"は、
With unsanded S-2 fiberglass blanks、
つまり、S-2 グラスを素材に使っています。

スコットのグラスロッド、Scott F2 のサイトにはこのように書かれています。
"S2 high performance fiberglass epoxy composite - faster recovery and greater feel."

また、S2グラスの解説として、
"Scott’s proprietary S2 glass is an innovative highly unidirectional glass and epoxy composite that helps us continue to advance fiberglass rod design.
Our glass rods are light, responsive, and exhibit the highest recovery speeds in fiberglass rods. Now you get all the feel of glass with high performance."
と書かれています。

このことからわかるのは、スコットのF2グラスロッドは、S-2 グラスのファイバーを”unidirectional”つまり、繊維の方向を(縦だけの)一方向に並べた素材からできている、ということです。

同じSグラスを素材にしているのですが、オービスとスコットのグラスマテリアルには違いがあるようです。

それはロッドブランクを構成するグラスファイバーが並べられている方向です。

グラスでもグラファイトでも同じなのですが、すこし前までは繊維が縦横方向に編まれた、いわゆる平織りの布のようなシートをクルクルと丸めてロッドブランクを作っていました。
ロッドの縦方向と、横方向のどちらの向きにも繊維が並んでいたわけです。

その中で、縦方向の繊維がロッドのアクションを、横方向の繊維はロッドの強度を受け持っていた、と考えるとわかりやすいと思います。

釣竿の製造方法が進歩していくなかで、横方向の繊維は、ロッドのアクションには関係のない部分だということがわかってきました。

関係がないというよりは、いらない部分、つまり、釣竿として構成することが可能ならば横方向の繊維は無くてもいい、竿に重さを付け加えるだけのよけいな物だという考え方が主流になってきたのです。

でも、横方向の繊維を無くしてしまえばどうなるのか?

単純に考えると、その竿は樽のタガを外したような物になってしまい、曲げ伸ばしを繰り返すと縦方向だけの繊維がバラバラになってしまう、という釣竿としてはとても使い物にならない竿状の物体(笑)になってしまいます。

それを解消したのが、繊維(ファイバー)をまとめる樹脂(レジン)の進歩でした。
横方向のタガがない縦方向の繊維だけでも使用中にバラバラになることなく、釣竿として使えるブランクが製造できるようになったのです。







(その4)

前項(その3)の最後にちょっとだけ解説した、”unidirectional” についてのお話しです。

米国の一流メーカーの最先端グラファイトロッドのレシピを見てもらうとわかるのですが、強大なパワーを持った魚を狙うのでさえなければ、いまどき各メーカーのハイエンドロッドは、ほぼすべてが ”unidirectional” 構造になっているといっても間違いはありません。

もっと言うならば、竹竿はすべて、自然に作られた ”unidirectional” 構造ですよね。
横方向の繊維なんて入っていませんから。

前にも書きましたが、釣竿が曲がって復元するのに必要なのは、縦方向のファイバーだけなのです。

釣竿のブランクの中で、横や斜めに走る繊維は、縦の繊維がバラバラになってしまわないように、ただまとめるためにだけ機能しているといっても過言ではありません。
だから、縦方向にだけ繊維が走っている ”unidirectional” 構造は、いちばんムダのないブランク構造だということになります。


本題のグラスロッドの話に戻ります。

グラスロッドについての話をするときに、よく、Sグラスがどうとか、Eグラスがなんとか・・・、
って話をしたり、聞いたりしますよね。

でも、その先のグラスファイバーの方向性についての話って、聞いたことがありますか?
おそらく、そんな話は聞いたことがないんじゃありませんか?

でもね、グラスロッドの内部でも、このグラスファイバーの並んでいる方向は、釣竿としての性能に大きく影響を与えるのです。

釣竿に、機能的にはいらない余計なモノが付属しているとすれば、
それは竿の質量が増える→慣性が大きくなる→動きが鈍くなる(動き出しが鈍くなり、動き出すと止まらなくなる)
というわけですね。




(その5)

グラスロッドを作ろうとする場合、
まず、素材を選択する必要があります。

①使用するグラス繊維素材がEグラスか、Sグラスか。

②ブランクを巻くためのグラスファイバーシートが、縦横にグラス繊維が織り込まれたクロス構造の素材か、縦方向にのみグラス繊維が並んだユニディレクショナル素材か。

これだけで、4つの選択肢があることになりますね。

ちなみに、アルケミータックル・グラスロッドのブランクは、
Eグラスの繊維をユニディレクショナルに並べたシートから作られています。
つまり、UD(unidirectional)Eグラスです。


その先に、フライロッドとして求めるアクションを具体化するための、ブランクデザインがあります。

そして、そのデザインは、ブランクのテーパーと厚さの組み合わせから計算され、設計されます。

ところで、同じ素材を使って、同じデザインのブランクを作れば、製品としておなじモノが出来るのでしょうか?

このあたりからが、プロダクトの品質の問題になってきます。
同じ名前のグラス素材、たとえば、Eグラスを使用したユニディレクショナルグラスといっても、それぞれの素材メーカーによって、使われている繊維や樹脂には違いがあります。

同じエポキシ樹脂といっても、さまざまな種類があり、Eグラスのファイバーもにしてもすべてが同じではありません。

もうひとつの大きな違いは、そのシート素材の厚みです。

たとえば、同じ数㎜の厚さの製品を積層して作るとしても、素材のシートを数枚重ねるだけでその厚みが出来る厚いシートと、数十枚重ねなければ必要な厚さにならない薄いシートがあります。
薄いシートを数多く重ねる方が製品としての精度が上がることは、すこし考えるとわかっていただけると思います。
そのかわり、使うシートの数は多くなり積層する手間も余計に掛かるので、当然コストは上がります。

また、そのシートをカッティングする精度にも、メーカーによって違いがあります。
どんな機械を使って誰がカッティングするのか、によって、外観は同じでも、まったく違う製品が出来上がってしまいます。


このように、一見おなじようにみえるグラスロッドにも、製品にかなりの価格差がある理由のひとつには、原材料と製作にコストの違いによるブランク価格の差があります。

なかには、販売戦略上などの原材料のコスト以外の理由で、ただ高いだけ、という製品も市場には見られますので、必ずしも原価が製品価格に反映してる、とまでは言えないのですが・・・。


つまり、商品説明では、同じ「Eグラスを使ったグラスロッド」になってしまうのですが、その言葉だけではわからない大きな違いが、そこにはあるのです。


ちなみに、今回発売する"Alchemy Dharma 754 Parabolic" Glass Rod に使用しているグラスブランクは、手に入る限り最上の素材を使って、国内の高度な技術を持ったメーカーの手で製作されています。

このロッドブランクは、素材から製作まで、本物の、Made in Japan です。




(その6)
今回は、グラスロッドの素材ではなく仕上げについて少し・・・

現在作られている、カスタムメイド的なグラスロッドは『アンサンドフィニッシュ』が多いように感じるのですが、そこにはなにか意味があるのでしょうか・・・(笑)

グラス素材のフライロッドについて、よく『アンサンドフィニッシュ』や『アンフィニッシュ』などという言葉を耳にされるのではないでしょうか?

アンサンドフィニッシュとは、サンディングしていない、つまりブランクの表面研磨をしていないという意味です。

アンフィニッシュは、仕上げをしていない、つまりブランクの表面コーティングをしていない、極端に言えば未完成品という意味になります。
ブランクの表面を研磨しているか、研磨していないのか、ということとは関係ありません。
ブランクの表面を研磨している、していないに係わらず、表面になんのコーティングもしていないブランク、ということですね。

このブランクのコーティング=塗装ですが、なんのためにするのか、というと、美観のためでもありますが、本来はブランクの表面を衝撃や紫外線劣化から保護するという機能性を持っています。
また、その後の作業工程でのトラブルを防ぐという目的も持っています。
表面をコーティングしていない無垢のブランクに、ガイドなどのハードウエアを取り付けたり、ロゴの部分にコーティングしたりすると、コーティング後の乾燥中にブランクの中から微細な気泡が発生して外観を損ねてしまう場合があるからです。

『アンサンドフィニッシュ』と『アンフィニッシュ』、なんとなく同じような意味に受け取りがちなのですが、この二つの言葉には大きな違いがあるのです。







この写真をよく見てもらえればわかると思うのですが、ブランクのバットエンド(いちばん太いブランクの下側10㎝ほど)と♂フェルールの表面に艶はありません。この部分がグラスファイバーブランクの素材が無垢で現れている部分です。

※ちなみに、この写真のブランクは表面を研磨して凸凹を無くした仕上げですので、『アンサンドフィニッシュ』ではありません。

冒頭の、現在作られている、カスタムメイド的なグラスロッドは『アンサンドフィニッシュ』の場合が多いのですが、そこにはなにか意味があるのでしょうか・・・(笑)

についての回答ですが、どうなのでしょうね・・・?

見た目が「なんとなくグラスロッドらしい」ということじゃないのかな。
なんて書いてしまうと、お終いですよね(笑)

ほんとうは、ちゃんとした機能的な意味があります。
特に低番手のグラスロッドの場合は、まったく同じブランクを『アンサンドフィニッシュ』で仕上げた場合と、ブランク表面の凸凹を研磨してツルツルにした場合とを比較すると、ブランクの強さがライン番手にして、約#0.5~1ほども変化するのです。

この違いを、『たったそれだけの違いなのか』と考えるか、
『そんなにも変わるのか』、と考えるか。

どっちが良いか悪いかではなく、その違いをどのように考えてブランクの製作に利用するのか、
が、ブランク設計者の考え方の違いといえると思います。